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イヌ(犬、狗)は、イヌ科の動物。ネコイヌ科イヌ属に分類される。



概要
学名は Canis lupus familiaris。イヌはリンネ(1758年)以来、伝統的に独立種 Canis familiaris とされてきたが、イヌをタイリクオオカミ (Canis lupus) の亜種の一つとする学説(1993年、D.E.Wilson and D.A.M.Reeder)が、現在は受容されつつある。またはジャッカルから枝分かれしたという説もある。およそ3000万年前にイヌ科で最古の祖先へスペロキオンがミアキスから進化し、北アメリカ大陸で誕生した。それからおよそ2000万年前にユーラシア大陸に移動し、さらに進化して犬の祖先といわれるトマルクトゥスとなり、アジアからヨーロッパやアフリカに広まって進化後、再び北アメリカ大陸に戻ったと考えられている。

広義の「イヌ」(後述)と区別して「イエイヌ」(英名 Domestic Dog)とも言うが、これは伝統的な学名 C. familiaris(家族の-犬)に対応した呼称。

また、広義の「イヌ」は広くイヌ科に属する動物(イエイヌ、オオカミ、コヨーテ、ジャッカル、キツネ、タヌキ、ヤブイヌ、リカオンなど)の総称でもあるが、日本ではこちらの用法はあまり一般的ではなく、欧文翻訳の際、イヌ科動物を表す dogs や canine の訳語として当てられるときも「イヌ類」などとしてイエイヌと区別するのが普通である。以下では狭義のイヌ(ヤマイヌなどを除くイエイヌ)についてのみ解説する。

イエイヌは人間の手によって作り出された動物群である。最も古くに家畜化されたと考えられる動物であり、現在も、ネコ Felis silvestris catus と並んで代表的なペットまたはコンパニオンアニマルとして、広く飼育され、親しまれている。

野生化したものを野犬(やけん、のいぬ)といい、あたかも標準和名のように、カタカナで「ノイヌ」と表記されることも多いが、もちろん種や亜種としてイエイヌから区別されるわけではない。

犬種については犬の品種一覧を参照。現在、ジャパンケネルクラブ (JKC) では、国際畜犬連盟 (FCI) が公認する331犬種を公認し、そのうち176犬種を登録してスタンダードを定めている。

世界全体では4億匹の犬がいると見積もられている。


生態的・形態的特徴

シベリアン・ハスキーイヌの属するイヌ科は、森林から開けた草原へと生活の場を移して追跡型の狩猟者となった食肉類のグループである。待ち伏せ・忍び寄り型の狩りに適応したネコ科の動物に対して、イヌ科の動物は、細長い四肢など、持久力重視の走行に適した体のつくりをしている。

また、イヌは古くから品種改良が繰り返されて、人工的に改良された品種には、自然界では極めて珍しい難産になるものも多く、品種によっては、出産時に帝王切開が必要不可欠となる(主にブルドッグ)。


鳴き声
日本では一般的に「ワンワン」と聞き做される。そのため、その鳴き声から犬のことをワンちゃんやワンコやワン公とも呼ぶ。江戸時代以前は「びよ」と聞き做されていた[1] 。また英語圏では「bow-wow(バウワウ)」「bark(バーク)」「howl(ハウ)」など、ロシアでは「Гав-гав(ガフガフ)」、中国では「ワンワン(汪汪)」、韓国では「モンモン」と鳴くとされる。



イヌの歩き方は、指で体を支える趾行(しこう)性で、肉球(4つの指球(趾球)と1つの掌球(蹠球))とが地面につく。は先が尖っており、走るときにスパイクのような役割をする。ただしネコ科のものほど鋭くはない。を狩りの道具とするものが多いネコ類とは異なり、イヌ科の動物はを引っ込めることができず、各指は広げることができない。ネコ類と同じく、第3指(中指)と第4指(薬指)の長さが同じである。後肢の第1指(親指に相当する)は退化して4本指の構造となっているが、たまに後肢が5本指のイヌもいる(こうしたイヌの後肢の第1指「狼」と称する)。前肢は5本指の構造となっているが、やはりその第1指も地面には着かない。


柴犬の後肢前肢はほとんど前後にしか動かず、鎖は失われている。逆に股は、靭帯による制約が少ないために、他の家畜類に比べて可動性が広く、後肢を頭を掻くのに用いたりし、また、雄は排尿時に高く持ち上げるが、陰茎の位置からして大型犬のほうが有利ではある(雌はしゃがんで少し上げる)。反面、靭帯が少ないことは、しばしば股脱臼を起こす原因ともなっており、高齢犬・著しく体重が増えた犬・大型犬でその傾向が高い。

肋は13対で、ヒトより1対多く、走るのに必要な肺とは、体のわりに大きい。はネコの他のグループの動物と違って球形に近く、特に左心室が非常に大きい。

尾は走行中の方向転換で舵として働くが、オオカミなどと比べると細く短くなっており、また、日本犬に多く見られるように巻き上がっているものがあるのは、の一部が退化して弱くなっているためである。

また、イヌは陰茎に陰茎をもつ。



歯式は 3/3・1/1・4/4・2/3=42 で歯は42本(21対)あり、32本(16対)の歯をもつヒトや、28-30本のネコと比べると、あごが長い分、歯の数も多い。ヒトと比較すると、切歯が上下各3本、前臼歯(小臼歯)が各4本と多く、後臼歯(大臼歯)は上顎で2本(下顎は3本)と少ない。ネコ亜に共通の身体的特徴として、犬歯(牙)のほかに、裂肉歯と呼ばれる山型にとがった大きな臼歯が発達している。この歯はハサミのようにして肉を切る働きをもつ。裂肉歯は、上あごの第4前臼歯と、下あごの第1大臼歯である。食物はあまり咀嚼せずに呑み込んでしまう。


消化器
イヌ科グループの他の動物と同様、イヌは基本的には肉食だが、植物質を含むさまざまな食物にも、ある程度までは適応する。消化管はそれほど長くないが、の長さが体長(頭胴長)の4-4.5倍程度であるオオカミに対して、イヌの方は5-7倍と、いくらか長くなっている。肉食獣の中には盲をもたないものもあるが、イヌはそれほど大きくないものの5-20cm程度の盲をもつ。



イヌの耳下腺は、副交感性の強い刺激を受けると、ヒトの耳下腺の約10倍のスピードで唾液を分泌する。唾液は浅速呼吸(喘ぎ)により口の粘膜と舌の表面から蒸散する。激しい運動のあと、イヌが口を開け、舌を垂らしてさかんに喘いでいるのはこのためである。イヌの体には汗腺が少ないが、この体温調節法は汗の蒸発による方法と同じくらい的であるという。

肛門には肛門嚢(のう)と呼ばれる一対の分泌腺があり、縄張りのマーキングに使われるにおいの強い分泌液はここから出ている。ジャコウネコやハイエナのように外に直接開いてはおらず、細い導管で肛門付近に開口している。なお、イヌが雨にぬれたときなどに特に匂う独特の体臭は、主に全身の皮脂腺の分泌物によるものである。



嗅覚
警察犬の遺留品捜査や災害救助犬の被災者探索等でよく知られるように、イヌの感覚のうち最も発達しているのは嗅覚であり、においで食べられるものかどうか、の前にいる動物は敵か味方かなどを判断する。また、コミュニケーションの手段としても、ここはどの犬の縄張りなのかや、相手の犬の尻のにおいをかぐ事で相手は雄か雌かなどを判断することでも嗅覚は用いられたりする。そのため、犬にとっては嗅覚はなくてはならない存在である。

イヌの嗅覚はヒトの数千から数万倍とされるが、その能力は有香物質の種類によっても大きく異なり、酢酸の匂いなどはヒトの1億倍まで感知できる。嗅覚は腔の嗅上皮にある嗅覚受容(嗅覚細胞)によって感受されるが、ヒトの嗅上皮が3-4cm2なのに対し、イヌの嗅上皮は18-150cm2ある。嗅上皮の粘膜を覆う粘液層中に分布する、「嗅毛」と呼ばれる線毛は、においを感覚受容器に導く働きをするが、イヌの嗅毛は他の動物のそれより本数が多く、長い。嗅細胞の層も、ヒトでは一層であるのに対して、イヌでは数層になっており、ヒトの500万個に対し、2億5千万から30億個あると推定されている。腔の系もよく発達している。ヒトが顔や声について特別な記憶力をもつように、イヌは匂いについての優れた記憶力をもっている。イヌを含む動物群の先のいつも湿っている無毛の部分を「鏡」と呼ぶが、これは風の向きを探る働きをすると考えられる。


聴覚
イヌは聴覚も比較的鋭い。また可聴周波数は 40-47000 Hz と、ヒトの 20-20,000 Hz に比べて高音域で広い。超音波の笛である犬笛(約30,000 Hz)は、この性質を利用したもの。聴力には、犬種による違いはほとんどみられない。



視覚
優れた動体視力を持っており、テレビ画像などはコマ送りにしか見えない。一方、イヌの眼には、赤色に反応する錐状体の数が非常に少ないといわれ、明るいときには、赤色はほとんど見えていない可能性が高い。色の明暗は認識できるが、全色盲に近いと考えられている。信号機だけは識別できるとされていたが、実はこれも灯火の点灯順序と人間の動きを関連づけて倣っていたに過ぎない事が確認されている。ネコやキツネの瞳孔が縦長であるのに対し、イヌの瞳孔は収縮しても丸いままである。 もっとも、最近の研究では、尿と同じ色の砂糖水は飲まないという実験結果が報告され、人間ほどではないものの、イヌも色彩を認識できるのではないかという説も唱えられるようになった。また、犬種によってもかなり視力に差があることが知られている。


出産と成長
メスの発情周期は7-8か月だが、犬種により差がある。妊娠期間は50-70日。3-12子を一度に出産するため、乳房を左右に5対持っているのが一般的である。生誕6-12か月で成犬の大きさになり、その後2-3か月で性的に成熟する。これはオオカミの2年に比べて早熟である。小型犬は成犬に達するのが早い分、性成熟も早い。


寿命
イヌは10歳になると老犬の域になり、12歳から20歳程度まで生きる。ただし犬種や生育環境によって異なり、基本的に大型犬の方が小型犬よりも短命である。また、いわゆる座敷犬(家屋内に飼われている犬)よりも、屋外で飼われている犬の方が、短命な傾向がある。一般的には、純血種よりも雑種の方が長命である。概ね、1年に人間で言うならば6歳程度年を取ると考えるとよい。
転じて年単位で数年分に匹敵する急速に発達した科学技術(パソコン・携帯電話等)を指して「ドッグイヤー」と呼ぶことがある。

2009年現在、ギネスブックにて生存する世界最高齢のイヌとして認定されているのは、アメリカ合衆国ニューヨーク州に住むダックスフントで、同年5月6日で21歳を迎えている[2]。


分布
イヌの染色体は78本 (2n) あり、これは38対の常染色体と1対の性染色体からなる。これは同じイヌ属のオオカミ類、ジャッカル類、コヨーテ類、ディンゴなどとも共通である。これらの種は交配可能であり、この雑種は生殖能力をもつ。ただし、これらは行動学的に生殖前隔離が起こり、また地理的にも隔離されている。ジャッカル類は主にアフリカとアジアに、コヨーテ類は北米に分布する。

また、オーストラリアとニューギニア島に生息するディンゴは、約4,000年前に、人類によって持ち込まれたイヌであり、かつては別種とされていたが、現在はイエイヌとともに、タイリクオオカミの1亜種とされている。


尻を嗅ぐことで犬は互いの強弱が分かるという
社会性
イヌの特徴としてヒトと同じく社会性を持つ生き物であることが挙げられる。意思疎通をするための感情や表情も豊かで褒める、認める、命令するなどの概念をもっている。ヒトに飼われているイヌは、人間の家族を、自身をその一員とする1つの群れと見做していると考えられ、とてもよく懐く。上位の群れ構成員に対して忠実に行動する習性のおかげで訓練が容易く、古来よりヒトに飼われてきた。一説によると最古の家畜である。 仔犬を入手して飼う場合には、親犬の元での犬社会に対する社会化教育と新しい飼い主と家庭及び周囲の環境への馴化との兼ね合いから、ほぼ6週齢から7週齢で親元より直接譲り受けるのが理想的とされる。


知能
品種によっては優れた学習能力を示す。他の犬に対し関心を示し、威嚇する行動を取る品種とそうでないものがある。この好奇心の強弱は、ドーパミン受容体D4遺伝子の多型領域の配列と関係があると言われている[要出典]。他の犬への関心の示し方、攻撃性は躾によっても抑えることはある程度可能である。


イヌに与えてはいけない食べ物
これらのものを好んで食べるイヌもいるため、飼い主が与えない、もしくは拾い食いさせないようにするなどの注意が必要。

チョコレート
これは、チョコレート類に含まれるテオブロミンという成分により中毒を起こすためである。ネコも同様の理由で与えてはいけない。
ネギ類(ネギ、タマネギなど)
これは、ネギ類に含まれる成分がイヌの赤血球を溶かし、貧血を起こすためである(タマネギ中毒)。これはネコも同様。

イヌの起源


イヌは最も古くに家畜化された動物である。手に子犬(イヌかオオカミかはっきりしない)を持たせて埋葬された、1万2千年ほど前の狩猟採集民の遺体が、イスラエルで発見されている。分子系統学的研究では1万5千年以上前に東アジアでオオカミから分化したと推定されている。イヌの野生原種はタイリクオオカミ (Canis lupus) の亜種のいずれかと考えられている。イヌのDNAの組成は、オオカミとほとんど変わらない。イヌがオオカミと分岐してからの1万5千年という期間は種分化としては短く、イヌを独立種とするかオオカミの亜種とするかで議論が分かれているが、交雑可能な点などから亜種とする意見が優勢となりつつある。本項の分類もそれに従っている。イヌとオオカミの交雑に関してはハイブリッドウルフも参照のこと。


人間社会との関わり
元来は、住居の見張り、次いで狩猟の補佐などのために家畜化されたと考えられるが、現在はほとんどが愛玩用であり、日本ではおよそ5世帯に1世帯がイヌを飼っている。長い年月をかけて交配が試みられ、ダックスフント、トイ・プードル、ブルドッグなど、用途に応じたさまざまな品種が開発されてきた。19世紀に生まれたケネルクラブによって、外形、気質などにより犬種の人為的な選別が進んだが、20世紀以降に生まれた新犬種の多くは、見ただけのために作られたものが多い。犬は人間によって最も人為的改良をくわえられた動物であると言える。

「シェイプシフター」(変身動物)と呼ぶ研究者がいるように、小さなチワワから大型のセント・バーナードまで、幅広いサイズと形態をもつ。

イヌは、下記のような形で人間に利用され、あるいは人間と関わってきた。


放牧された羊の番をするボーダーコリーヒツジやウシなど家畜の飼育を助ける(コーギー、ボーダーコリーなど)
牧羊犬、牧畜犬
愛玩動物(ペット)、コンパニオン・アニマル(伴侶動物)として飼育される
愛玩犬
TVのCMやドラマなどで活躍する
タレント犬、モデル犬
人間の住居等を見張り、野獣や不審者の接近・侵入を防ぐ
番犬
体に障害のある人を助ける(主にラブラドール・レトリーバー)
盲導犬、聴導犬、介助犬
身体障害者補助犬
麻薬捜査、犯罪の容疑者追跡など、犯罪捜査を助ける(ジャーマンシェパード、ドーベルマンなど)
警察犬、麻薬探知犬、爆発物探知犬、DVD探知犬
イヌぞりや荷物運びの引き手として使われる
そり犬、荷運び犬
馬車の護衛として馬と共に併走する(グレート・デーン、ダルメシアンなど)
食用にされる: 犬食(一部の中国人、朝鮮人、ベトナム人等)
闘犬やドッグレース、曲芸などの娯楽に用いられる
競走犬、演技犬
狩猟の際、獲物の発見、追跡、捕殺、撃ち落とされた獲物の探索などを助ける(セッター、ポインターなど)
猟犬(鳥猟犬、獣猟犬)
軍事的に使われる(ジャーマンシェパード、ドーベルマンなど)
軍用犬(陸上自衛隊と海上自衛隊は警備犬、航空自衛隊は歩哨犬と呼ぶ)
対戦車犬(ソビエト軍がナチスドイツ戦車軍の対抗策としたが自軍にも被害を及ぼし失敗)
雪山や海、さまざまな被災地などで、遭難者の発見・救助に利用される
災害救助犬
院、監獄等の各種施設で、患者等の心理面のケアに利用される
セラピー犬
ブタなどと同様、トリュフなどにおいの強い食物の探索を助ける
実験動物 系統管理されたビーグルが使われることが多い

イヌと歴史・文化

古代エジプトの壁画に描かれた犬 (紀元前2300年頃)人間と暮らし始めた最も古い動物であるイヌは、民族文化や表現のなかに登場することが多い。

古代メソポタミアやギリシャでは彫刻や壷に飼い犬が描かれており、古代エジプトでは犬は死を司る存在とされ(→アヌビス神)、飼い犬が死ぬと埋葬されていた。紀元前に中東に広まったゾロアスター教でもイヌは神聖とみなされるが、ユダヤ教ではイヌの地位が下り、聖書にも18回登場するが、ここでもブタとともに不浄の動物とされている。イスラム教では邪悪な生き物とされるようになった。現在でもイスラム圏では牧羊犬以外に犬が飼われる事は少ないが、欧米諸国では多くの犬が家族同然に人々に飼われている。日本でも5世帯に1世帯が犬を飼っているといわれている。中世ヨーロッパの時代には、宗教的迷信により魔女の手先として忌み嫌われ虐待・虐殺された猫に対し、犬は邪悪なものから人々を守るとされ待遇は良かった。

古代中国では境界を守るための生贄など、呪術や儀式にも利用されていた。知られる限り最古の漢字甲文字には「犬」が「」と表記し、「けものへん」を含む「犬」を部首とする漢字の成り立ちからも、しばしばそのことがうかがわれる。古来、人間の感じることのできない超自然的な存在によく感応する神秘的な動物ともされ、死と結びつけられることも少なくなかった(地獄の番犬「ケルベロス」など)。 漢字のなりたちとして、犬の`は、耳を意味している。


歌川国芳 『武勇見立十二支・畑六良左エ門』 1840年頃[3]日本においては縄文時代の遺跡から埋葬されたイヌが見つかっており、古代日本人とともに犬を飼う習慣が日本列島に渡ってきたと考えられる。しかし弥生時代の長崎県・原の辻(はるのつじ)遺跡などでは、解体された痕のあるイヌのが発見され食用にも饗されたことが伺える。『日本書紀』には日本武尊が神坂峠を超えようとしたときに、悪神の使いの白鹿を殺すと道に迷い窮地に陥ったところ、一匹の狗(犬)が姿をあらわし、尊らを導いて窮地を脱出させたとの記述がある。また、『日本書紀』には天武天皇5年4月17日(675年)の条に、4月1日から9月30日の期間牛・馬・犬・猿・鶏ののいわゆる肉食禁止令をだされており、犬を食べる人がいたことはあきらかである。なお、長屋王邸跡から出土した木簡の中に子供を産んだ母犬の餌に米(呪術的な力の源とされた)を支給すると記されたものが含まれていたことから、長屋王邸では、貴重な米をイヌの餌にしていたらしいが、奈良文化財研究所の金子裕之は、「この米はイヌを太らせて食べるためのもので、客をもてなすための食用犬だった」との説を発表した。奈良時代・平安時代には貴族が鷹狩や守衛に使うイヌを飼育する職として犬養部(犬飼部)が存在した。鎌倉時代には武士の弓術修練の一つとして、走り回るイヌを・引矢(ひきめやー丸い緩衝材付きの矢)で射る犬追物や犬を争わせる闘犬が盛んになった。 江戸幕府中期、江戸では野犬が多く赤ちゃんが食い殺される事件もあった。五代将軍徳川綱吉は戌年の戌月の戌の日の生まれであったため、彼によって発布された「生類憐れみの令」(1685年 - 1709年)において、イヌは特に保護(生類憐みの令は人間を含む全ての生き物に対する愛護法令)され、元禄9年には犬を殺した江戸の町人が獄門という処罰までうけている。綱吉は当時の人々から「犬公方」(いぬくぼう)とあだ名された。綱吉自身大の愛犬家で狆を百匹飼い、かごで運ばせていた。この法令が直接適用されたのは幕府の天領(直轄領)であったが、間接的に適用される諸藩でも将軍の意向に逆らうことはできなかった。一般に明治以前までは農村などでは狸や狐と同様に食用とされることもあったが、食糧難の戦後暫くまではその風習は各地で残り、忠犬ハチ公の子孫が盗難にあい食べられたという記事が当時の新聞に残る。

欧米諸国では、古代から狩猟の盛んな文化圏の為、猟犬としての犬との共存が長く古い。今日では特に英国と米国、ドイツなどに愛犬家が多い。世界で最古の1873年に設立された愛犬家団体の英国のケンネルクラブと1884年に設立された米国のアメリカンケンネルクラブがそれを物語っている。ヨーロッパ諸国の王家や貴族の間では、古来から伝統的に愛玩用、護衛用、狩猟用などとして飼われている。特に英国イングランド王チャールズ2世とエドワード7世は愛犬家として有名である。ヴィクトリア女王はコリーなどの犬を多数飼っていた。現英国女王エリザベス2世も愛犬家で知られている。現在でも英国王室は犬舎を所有して、犬を飼育・繁殖している。ドイツのフリードリヒ大王は常に身辺にイタリアン・グレーハウンドを数匹侍らせていた。大王はポツダムにある墓所に愛犬達とともに葬られた。政治家では歴代のアメリカ合衆国大統領に愛犬家が多い。特にクーリッジ大統領とフランクリン・ルーズベルト大統領は愛犬家として有名である。近年ではブッシュ前大統領も愛犬家。

イヌは一般に出産が軽い(安産)とされることから、これにあやかって戌の日に安産を願い犬張子や帯祝いの習慣が始まるようになる。


G・ボルディーニ 『レジャーヌ夫人』 1885年イヌの鳴き声は、現代日本では「ワンワン」などの擬音語で表わされるのが普通だが、歴史的には「ひよひよ」「べうべう」などと書いて「ビョウビョウ」と発音していた期間が長い(狂言などにその名残りを留める)。江戸時代に今のような「わん」が現われ、一時期両者が共存していた。その他の鳴き声および表記としては「ばうばう」「ぐるるるる」「うぉーん」「くーん」「きゃいーん」など。

「人間の最良の友 (Man's best friend)」と言われるように、その家族に忠実なところがプラスイメージもあるが、東西のことわざや、「犬死に」「犬侍」「犬じもの」「負け犬」のような熟語では、よい意味で使われることはあまりない。また、忠実さを逆手にとって、権力の手先やスパイの意味で「犬」と用いられる。また「雌犬」と女性への侮辱語として使われる。 植物の和名では、イヌタデ、イヌビエなど、本来その名をもつ有用な植物と似て非なるものを指すのにしばしば用いられる。

イヌはマスコットや漫画など、現代のフィクションのキャラクターなどとしても頻繁に登場する。イヌがテーマとなった、あるいはイヌを主要なキャラクターとする映像作品・文学作品等については、イヌを主題とする作品一覧、Category:架空の犬を参照。


歴史に名を残したイヌ
人間との共生が最も古い動物故に多くの犬たちが名犬とされてきた。 ノンフィクションの分野でも、忠犬ハチ公や南極物語などのように、実在した犬にまつわるエピソードや芸術作品などが数多く存在する。 (以下の犬たち以外にも名を残したのも多くいる。)

1700年代
1781年 名前不明(狆) - 酒井雅楽頭の愛犬。光格天皇より六位の位を下賜された。
1880年代
1889年 ツン(薩摩犬) - 西郷隆盛のウサギ狩時の愛犬である雌犬。上野恩賜公園に立てられた銅像にその銅像が寄り添って立てられた。(製作者は後藤貞行、モデルは仁礼景範海軍中将の飼い犬である雄犬)
1895年 オウニー(雑種) - 1888年に米国のニューヨーク州の郵便局のマスコットとなり、郵政長官から旅行許可証を貰い、船に乗って世界一周をした。
1900年代
1900年 ニッパー(フォックス・テリア) - 円盤式蓄音器の発明者ベルリナーが感動した以前の飼い主の声に耳を傾ける肖像画を商標登録し、現在でも日本ビクターなどに使われている(His Master's Voice, HMV の商号はこれによる)。
詳細は「ニッパー (犬)」を参照

1902年 名前不明 - ロシアの生理学者イワン・パブロフ博士の飼い犬で、条件反射の実験に使われ、以降、「パブロフの犬」といえば条件反射のことを指すようになる。
1923年 ボビー(コリー種) - 米国インディアナ州で飼い主とはぐれ、6か月でおよそ4000kmを歩き、離れた飼い主の住むオレゴン州まで戻ってきた。
1930年代
1934年4月 忠犬ハチ公(秋田犬) - 主人(東京帝国大学農学部教授の上野英三郎博士)の帰りを渋谷駅においてその死後も待ち続ける姿が話題となり、同駅前に銅像が立てられた。
1940年代
ブロンディ(ジャーマンシェパード) - ナチスドイツの総統ヒトラーの愛犬。1945年ベルリンの防空壕で主人と運命をともにした。
チップス(雑種) - 第二次世界大戦中数々の勇敢な行為により、アメリカ陸軍から二つの勲章を授与された。
1950年代
1957年11月3日 クドリャフカ(ライカ) - 旧ソ連が宇宙に打ち上げたスプートニク2号に搭乗した。
1958年 タロ、ジロ(樺太犬) - 南極越冬隊のイヌぞり用に南極に連れて行かれ、かの地で生き延びた。当時使われ、現在船の科学館に係留展示されている南極観測船「宗谷」、また東京タワーに銅像がある。
1980年代 盲導犬サーブ - 冬の日に飼い主を事故から守り足にけがを負った。

障害犬
この節には『独自研究』に基づいた記述が含まれているおそれがあります。信頼可能な解釈、評価、分析、総合の根拠となる出典を示してください。

近年高まるペットブームの中、一部の業者によって人気品種の乱繁殖が行われいる。そして近親交配の結果、先天的障害を持つ犬が増加している。生まれながら障害を発している犬は処分されることが多い。国はこうした障害犬の増加をうけ、動物管理法を改正し悪質業者を処分できるようになった。しかし、結局のところ消費者の意識が変わらなければ障害犬を産む乱繁殖をとめることはむずかしい。


イヌの登場することわざ・故事成語
ウィキクォートにイヌに関する引用句集があります。五十音順に並べる。

赤犬が狐追う
一犬影に吠ゆれば万犬声に吠ゆ
一犬虚に吠ゆれば万犬実を伝う
一犬吠形百犬吠聲 - 王符『潜夫論』賢難
犬一代に狸一匹
犬が西向きゃ尾は東
犬が星見る
犬腹(いぬっぱら)
犬に肴の番
犬になっても大家の犬
犬になるなら大所の犬になれ
犬にも食わせず棚にも置かず
犬に論語/犬に念仏猫に経
犬の川端歩き(犬川)/犬の子の徒歩き
犬の糞で敵を討つ
犬の遠吠え/負け犬の遠吠え
犬の蚤の噛み当て
犬は三日の恩を三年忘れず
犬折って鷹の餌食/犬折って鷹に捕らる
犬も歩けば棒に当たる
犬も頼めば糞食わず
犬も朋輩、鷹も朋輩
犬を喜ばせる
飢えた犬は棒を恐れず
兎を見て犬を放つ
内は犬の皮、外は虎の皮
粤犬(えっけん)雪に吠ゆ
粤犬吠雪/越犬吠雪
大犬は子犬を責め、子犬は糞を責める
尾を振る犬は打てず/尾を振る犬は叩かれず             
飼い犬に手を噛まれる
垣堅くして犬入らず
画虎類狗/画虎成狗/描虎類狗
食いつく犬は吠えつかぬ
狗緇(くし)衣に吠ゆ
狗吠緇衣
狗頭角を生ず
狗頭生角
狗尾続貂
暗がりの犬の糞
鶏犬の声相聞こゆ
鶏犬も寧(やすら)かならず
鶏犬不寧
鶏鳴狗盗
桀の犬尭に吠ゆ
桀犬吠尭
犬猿の仲/犬と猿/犬と猫
犬牙相制す
犬馬の心
犬馬の年/犬馬の齢
犬馬の養い
犬馬の労を取る
犬羊の質
狡兎死して走狗烹(に)らる - 司馬遷『史記』「越王句踐 世家」
狡兎死 走狗烹
狡兎走狗
狡兎死して良狗烹(に)らる。- 司馬遷『史記』「(韓信)淮陰侯 列伝」→ 韓信、范蠡
狡兎死 良狗烹
狡兎良狗
米食った犬が叩かれず、糠食った犬が叩かれる/笊(ざる)舐めた犬が科かぶる
蜀犬(しょっけん)日に吠ゆ
蜀犬吠日
棄犬(すていぬ)に握り飯
跖狗吠尭
喪家の狗
鼠窃狗盗
泥車瓦狗
陶犬瓦鶏
唐犬額
夏の風邪は犬もひかぬ
夏の蕎麦は犬も食わぬ
白衣蒼狗/蒼狗白衣
飛鷹走狗
夫婦喧嘩は犬も食わぬ
吠える犬は噛まぬ
煩悩の犬追えども去らず
邑犬群吠
鷹犬之才
羊頭狗肉/羊頭を懸げて狗肉を売る
楊布之犬
狼心狗肺
驢鳴犬吠/驢鳴狗吠
淮南之犬



名前にイヌを持つもの
生物の名、特に植物の名で、イヌが付くものも多い。イヌの特徴などに似ていることによるものもあるが、多くの場合、イヌが付かないものに比べて、より有用性が低かったり、使えなかったりすることを意味する。(派生語も参照のこと)

イヌの特徴からの命名には、イヌノフグリ、イヌノハナヒゲ、イヌノヒゲなどがある。
より使えないことによる例としては、イヌマキ、イヌビワ、イヌムギ、イヌガラシ、イヌツゲ、等。

その他 イヌについて

ラブラドール・レトリーバーの親子行動学からの詳細な議論については、(データとしては古くなってしまうが)コンラート・ローレンツの『人イヌに会う』(至文堂)を参照するとよい。
犬はしっぽを右に振って喜びを、左へ振って警戒を表現するという説がある[4]。
さまざまな犬種ごとのイヌを繁殖させて販売する業者をイヌのブリーダーといい、各ブリーダーの犬舎を、しばしばケンネル、ケネルとも呼ぶ(英語 kennel から)。各国で犬種の管理等を行う蓄犬団体は「ケネルクラブ」と称し、日本にも社団法人ジャパンケネルクラブがある。
1990年代以来のペットブームの中、イヌは高い注を集めてきている。人気犬種は時代によって変わるが、1990-2000年代に話題を呼んだ犬種としては、シベリアン・ハスキー、ゴールデン・レトリバー、ウェルシュ・コーギー、ブルテリア、ダルメシアン、チワワなどが挙げられる。しかし、特定の犬種に人気が集まるいわゆるブームが起こるのは、日本特有の文化であると言われている[要出典]。また、そのブームに比例してドッグウェア(犬に着せる服)も様々な多様化したブランドが進出し、これもまたブームとなっている。
最近では、愛犬と飲食できるドッグカフェ、愛犬と運動できるドッグラン、愛犬と旅行中に泊まれるペンションやホテルなどが増えている。また、愛犬を癒すためのドッグセラピーも人気である。
漫画『ピーナッツ』のスヌーピーのビーグル犬、『動物のお医者さん』(チョビ)によるシベリアン・ハスキー、ディズニー映画『101』によるダルメシアン、アイフルのテレビCM(くぅーちゃん)によるチワワなど、テレビ・映画・漫画などの影響で、期せずしてブームとなった犬種もある。また、子犬を先からアップで撮影した The Dog シリーズをはじめとして、じゃがいぬくん、しばわんこ、お茶犬、アフロ犬など、イヌをモチーフとする最近の(いやし系)デザインやキャラクターものは、枚挙にいとまがない。しかし、イヌは愛玩動物として飼育されている数が多い分、人間による虐待・虐殺により、命を落とすものや、「捨て犬」として不法に遺棄されるもの、あるいは飼い主やその家族の身勝手無責任な理由よって保健所に送られるものも少なくない。例年、非常に数多くのイヌや猫たちが、全国の保健所施設で殺処分されている(2006年度で犬86,000頭余)。特定の動物の遺棄や虐待は動物愛護法で処罰されることがある。さらに、離島などで野生化した野犬(やけん)の存在は、野猫や人為的に持ち込まれたマングースとともに、絶滅が危惧される小動物にとって、大きな脅威となっている。
ロシアでは、航海の安全を守る守り神として犬を乗船させる習慣がある。
作家太宰治は極度の犬嫌いだったらしく、犬に対する心情(恐怖)を短編「畜犬談」において痛ましくもユーモラスに記している。
公園や河川敷などで飼い犬のリードを外して放し飼いにする者も少なくないが、たとえ短時間であろうともこれは違法行為であり、罰金刑が課せられることもあり得る。

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